西遊記(白龍捕獲の章)

しつこいようですが、パロディーですm(_ _)m



「吐き出せ!」

大木ほどの大きさに巨大化させた如意棒を振り上げ、悟空が叫ぶ。

悟空の目の前には、見上げるほどの大きさの白い龍が、滝つぼから首を出していた。
白龍は、小さな妖怪猿を見下ろすと、ゆったりと長い髭を燻らせる。

「喰ってしまったものは仕方ないだろう。それとも、腹の中を探してみるか?」
龍の声は、静かで低かったが、滝の音にも負けない響きを持つ。

八戒と沙悟浄は、三蔵の傍で、各々の武器を構える。
悟空は、再び叫ぶ。


「お師匠さんの馬を、吐きだせっつってんだ!」
「そんなに大事な馬なら、水を飲ませる場所を考えるのだったな」と龍が言う。

確かに、ひと休みした、この場所の妖気を感じ取れなかったのは落ち度だった。
図星を突かれたので、悟空の怒りは限界をポンと超えた。


「へぇ。なるほど、そうかい」
静かな口調になった悟空に、仲間たちの方が後ずさった。
「あ、兄貴、相手がでかすぎるよぉ・・」八戒が恐る恐る言うが、悟空は聞いてない。

「だったら!てめーの腹を突いて吐き出させるまでだ!」
言うが早いか、悟空は巨大如意棒を、軽々と頭上で一回転させながら、
白龍めがけて飛び掛っていった。


すさまじい水柱が上がり、三蔵たちの頭上から、盆をひっくり返したような雨が落ちる。
「こら!悟空!馬はもういい!」
三蔵の声も、悟空には聞こえていない。

悟空は龍の腹を狙って、如意棒を打ちつける。さすがの龍も身をよじらせたが、
体を大きく回りこませ、悟空を巻き込むように捕らえ、滝つぼに落とし込んだ。

沈み込んだ悟空を、更に鼻先で勢いよく落とし込む。激しい水音、水面が渦を作る。
「わーっ!兄貴がおぼれるー!」八戒は、泣きそうになる。


「これは、ちと危ないのぉ。お猿さんも強いが、龍の滝つぼじゃからの」
沙悟浄は、首の玉飾りを三蔵に預けると、滝つぼの中へ飛び込んだ。
「わーっ!爺さんまで!どどどど・・どうしよう・・」
八戒は、三蔵を振り返る。
「お・・お師匠様〜」

三蔵は大きな溜息をつく。
「ここで待つくらいはできる。悟空を加勢してこい。」
「は、はーい!」八戒も、うろたえながらも、渦巻く滝つぼに飛び込んだ。


滝つぼの中、白龍は、小さな相手に手こずった。猿も豚も、思った以上にすばしこい。
噛み付こうにも巻きつこうにも、小さいので捕まらない。
二匹でチョロチョロ動くので、的が絞れない。
対して悟空たちは、武器を振り回せば、龍の体のどこかに必ず当たる。

これは、面倒な奴らだと思い、水ごと飲みこんでやろうと、口を開けたその時、
白龍は、背中に、おそろしい悪寒が走るのを感じた。

「だれだ!それに触れるな!」

龍は、水中で大きく身を翻し、滝つぼの底に向かって叫ぶ。
そこには、沙悟浄が、底の石を動かし、何かを探していた。

「爺さん?」悟空と八戒が、キョトンとしていると、「おお。あったあった。」と沙悟浄が言う。

「おのれ!返さんかー!」白龍は沙悟浄に、襲い掛かるが、そこは沼爺。軽く避ける。
白龍が沙悟浄を追うので、悟空の目の前を、無防備な龍の頭のてっぺんが通り過ぎる。

「なにパニクってるんだか。俺を無視すんな!」

「ばこっ!」


やがて、静かになった滝つぼの水面を見ていた三蔵の目の前に、
白い龍が、腹をみせて、ぷかっ・・・と浮かんできた。

「お前の方に同情するよ」
頭に巨大なコブをつけ、白目をむいた龍に、三蔵が呟く。


沙悟浄が見つけたのは、龍の玉(ぎょく)だった。
祭られてある祠(ほこら)から、封印の玉が滝つぼに落ち、龍は呪から放たれていたらしい。
「ほっほっほ。呪文を封印された玉を見つけるのは得意じゃ。」と沙悟浄が笑う。

「あのー。それ、返してもらえないでしょうか・・」頭に、大きなコブをこさえた白龍が聞く。

「馬を吐き出せ」 悟空が言う。
「それ無茶ですよぉ・・」白龍は涙目になる。

「どちらにしても、この玉は、このままにはしておけんな」
三蔵の言葉に、白龍は慌てた。
「祠に戻すのは、堪忍してくれ。せっかく自由になったのに。」
うろたえる龍を見て、一同も、さすがに、ちょっと可哀相になる。


八戒が、龍に話しかける。 
「一緒に天竺に行く?」
「へ?」
白龍は、目を丸くして八戒を見る。

滝の音だけが、激しく響く。
嬉しそうな八戒の後ろで、悟空が頭を抱えていた。


                                             


                                  前回に続いて、また、水中戦でした。
                                  次回は、少女、羅刹女。うちの羅刹女は、ちっこいです。
                                  見た目七歳の、おてんば娘!・・もう壊れっぱなしです。
                                     


      おまけのはなし

「そうだ。おまえ、馬になれ」と、悟空が言った。
龍は驚いたが、でも、さほど悪い気はしなかった。

もう、何百年も、この滝つぼにいた。封印が解けた事がバレるのを恐れて、出なかった。

「たのしいかもしれない・・」 と、龍は思った。
封印の玉は、沙悟浄の玉飾りに加えられ、天竺で呪を解いてもらおうと話が決まる。

白龍の体が、ぼんやりと白く揺らぎ、見る見るうちに、みごとな白馬に変化した。
「こんなもんで、どうだ?」と皆に聞く。

「出発の時に、天帝からもらった馬より、みごとな馬だ。」と、三蔵が誉めた。

「気をつけろよ。このおっさんは、天帝からもらった馬、即、売ってるからな。」と、悟空が笑う。



                                   龍は、中国では5本指。韓国では4本指。
                                   海を渡って、日本に来ると、3本指になるそうです。
                                   不思議ですね〜。
                                   これは、物知りクツさまから教えていただきました。