三つ子の魔法使い その8

闇の巣窟

欲しいもの。護りたいもの。譲れないもの。
互いの存在をかけての対決。揺るがない意志を持って。


音がない。 冷たい。 暖かい日の光も届かない闇の城内。

重く湿った空気で、息詰まるような中、ニナは、自分の心臓の音だけが響くように感じました。

城の地下を流れる水脈を利用して、所々人の手が加わっただけの自然の地下水路です。
物音の反響を警戒して、三つ子と、その仲間は、用心深く進んでいきました。

目指す場所。それは、闇の魔法の儀式の間です。


水路は迷路のようになっていて、
どの道を選択するかはルカに任されていました。

進んでいたのですが、ふと、ルカが足を止めました。  
「どうした?」 三つ子の長兄が聞きます。


目を凝らしても、少し先は闇で、よく分かりません。
でも、かすかに、何かの気配があります。

ニナは、体が震えてきました。 「何かいる・・」
くぐもったような音が、闇から。かすかに聞こえました。

ルカは唇をかみました。「なんで奴がここまで・・」

レトと王軍の二人は、各自の武器に手をかけます。

ルカが、あわてて柄を握る兄の手を押さえました。
「いくらレト兄でも、あれはダメだ。こっちへ・・」

ちょっと不満そうな顔をしたレトですが、
ここは弟の道案内に従うことにしました。

「少し、遠回りになるけど、こっちだ。」


水路を少し登りあがり、崩れた岩の隙間から体を入れ、なんとかくぐり抜けると、暗く冷たい部屋でした。

闇に目を凝らし、ニナは目を丸くして見上げました。 「魔法書?」
ニナたちの国の書庫に負けず劣らずの、闇の魔法書が、いくつもの背の高い書棚に並べてあったのです。

「2年かかっても、半分も読めなかったんだよね〜」

ルカが言うので、レトが気色ばみます。「ルカっ!」
「はい、ごめんなさい。もう言いません」ルカは笑ってホールドアップしました。


遠回りコース。 闇の城の最下層を壁伝いに走ります。こうなると、闇人との遭遇も覚悟の上です。

ときおり出会ってしまう闇人を、やりすごしたり、時には声を出す間を与えず倒さなくてはなりません。


まずは書庫を出てから、いきなり闇人二人と鉢合わせっ。

レトとドランが、矢のように低く跳び、容赦なく剣で切り裂き、消し去ります。「急ぐぞっ」
それを皮切りに、皆は走り出しました。

時折、遭遇する闇人を、一気に消し去りながら、走ります。異変に気づかれるのは時間の問題でしょう。

ニナは、青くなっていました。目の前で起こる光景は、ニナには初めての事です。
でも、恐がっている暇などありません。皆に遅れないように、一生懸命走りました。

「こっちっ!」ルカが先導します。
気をつけていないと、妙な横道に入り込むので、おいていかれそうです。

そのとき、

二ナの頭の中に声がしました。(ニナ、コッチ)

ふと、目の前の闇に、あの小さな闇人が浮かんでいます。「いたわね!待ちなさい!」思わず前に一歩・・!

「?!」

ニナは、一瞬、目の前が消え、自分がどうなったのか分かりませんでした。足元の地面が消えたのです。
誰かの叫び声が、遥か頭上で聞こえる気がします。


「ニナ!」

いきなり開いた暗い穴にニナが落とされたのです。先へ進むより、レトは迷わず後を追う選択をしました。
すかさずルカが長兄の袖を掴み、止めました。
「??」 思わぬ弟の行動にレトは、目を丸くしました。ルカの顔は気色ばんでいます。

「これは鏡の間でしかできない!城主の仕業だっ!間に合わないっ!オレが止めるから、レト兄はニナを!」

レトが驚いて見ていると、ルカは何かを決したように、後ろの壁に、吸い込まれるように飛び込みました。
「えええーっ!!」
声をあげたのは、ゴーラとドランです。壁を抜け土に潜るのは闇人のできることです。

レトは、弟がどれほど闇人の体質に変化していたのか思い知らされ顔を歪めましたが、すぐに意を決します。
「ドラン、ゴーラ、ニナを頼む。オレはルカを追う!」


おいで、おいで、たんぽぽさん、いっしょにあそぼう。いやなの?いやなの?
それなら、きえて。


ニナは、まっさかさまに、暗闇に落ちていきます。

こんなとき、パニックを抑える 気持ちの強さが、生死を分けます。

ニナは、落ちていく恐怖を押さえ込み、すばやく呪文を唱え、落ち着いて繰り返しました。

ふわっと体が浮き、落ちるスピードが緩みます。
地面がどこにあるかは分かりませんが、ニナは、呪文を念じ、繰り返しました。

やがて、背中に何かが当たり、それが地面だとわかると、ニナは脱力して、今更ながら震えてきました。

「わたし、どこに落ちたのかしら。」周りを見渡すと、見覚えのある闇の水路です。「あら。ここまで落ちたのね」

立ち上がろうとしたとき、水路の先、闇の中で何かが動きました。小山のような大きな黒いものが動きます。

ぐぐぐぐぐ・・・と、何かが呻くように、くぐもった声。


ニナは、声もでません。恐怖に座り込んでしまいました。

もしや、これが、ルカが言っていた「奴」?

闇の魔物はゆっくりと体を回し、ニナの方を向きました。

ぬめぬめした黒い巨体は、
太い尻尾までウロコが鈍く光り、ワニの形に似ています。

ルカが、レトを止めたわけが分かります。
これはもう、魔物と言うより巨大魔獣です。

頭の中に声が聞こえます。
(ニナ、コワイ?タスケテアゲル。オイデ。オイデ。)

ニナは、怒りました。「冗談じゃないわ」

突然!

巨大な口を目の前で大きく開け、闇の魔物は、耳を裂くような声をあげ、ニナは耳をふさぎました。
地下水路の洞穴が、ビリビリと震え、足元の水が沸騰するように動きます。

次の瞬間、どすっどすっと、目の前に迫ってくる巨大な闇の魔物に気がつき、とにかく逃げました。

追ってくる魔物の体重に地面が揺れ、とうとう目の前に岩が崩れ落ち、追い詰められてしまいました。


ニナは、キッと振り返り、洞穴を揺るがし迫ってくる闇の魔物を睨みつけました。
覚悟をきめて、両手で魔法の呪文字を切り、狙いを定めます。


「少しくらいは抵抗させてよね。ただでは餌になってあげないわよ!」

するどい剣歯が並ぶ、魔物の口が全開し、ニナに飛び掛ろうとした時!

どどどどど・・・・。・・どーんっと、ものすごい音!

「ギャーッギャッギャッ」と、すさまじい叫び声。バサバサという、羽音と旋風!何かがニナをつかみます!

「キャーッ!ちょっと!何よ何!!」ニナは体を丸ごと掴まれて、振り回されます。もう、何がなんだか。


ぐぐぐぁぁぁ・・と叫ぶ、闇の魔物の声と、ギャッギャッと叫ぶ何者かの声で、耳がやぶれそうです。

つかまれたままの状態のニナは、目が回りそうでしたが、どうも、見覚えのある新参者の顔と声。

「ま・・マルちゃん?!」

水路の魔物と、あきらかに戦っている様子の黒い体は、

丸みを帯びた、黒い鳥。  闇の森の賢者、 闇のふくろうの大人になった姿でした。


「ニナ、コナイ。ニナ、キライ。コロス。」

闇の魔法の儀式の間。

ニナの様子を映す、大きな闇の鏡を見つめながら、

小さな闇の城主は、つぶやきました。


「そうは、させないからね」

城主は、その声に、ゆっくりと振り向きます。

そこには、ルカが、ひとりで立っていました。

小さな城主は低い声で言いました。


「・・・裏切り者」



                  



                  次回は、闇の魔法 VS 白の魔法
                           闇の剣士 VS 白の剣士
                                  バトル、バトル、がんばれ〜。

                                      完結まで、あと2回。たぶん。