三つ子の魔法使い その7

潜入


暗い暗い闇への扉。謎解きの扉。
負けるもんですかと、震えるような恐怖心を押さえ込む。
でも、少しだけ、冒険心に心が躍る。



三つ子の魔法使いは、闇の森に戻ってきました。
自らを黒い闇の帯で包み込み、封印の眠りについた闇の城に潜入するのです。

レトは、一度国に戻って王様に会ってきました。報告と、作戦と、闇の城潜入の下準備のためです。

ゴーラとドランも一緒に来てくれました。ルカ救出の時と同じです。
「これは、国の存亡の問題だからね。」と、同行を申し出てくれました。

ルカと自分だけなら、レトは断ったでしょう。  でも、ニナを連れて行かなくてはいけません。
妹の白の魔法力が不可欠なのです。それとなく、彼女を護衛してくれるように頼みました。

「光栄だね。魔女さまの護衛か」ゴーラはニッコリ笑いました。

封印の黒い物質を調べていたルカは、
「ちょっと離れてて」と皆に言いました。

闇の壁に、穴を開けようというのです。

ルカは、魔法の文字を両手で宙に描きます。

ニナの知らない、闇の呪文字でした。

黒い封印の壁に、ルカが両手を当てると、
その部分だけが溶けたように穴が開きました。

ニナは顔をひきしめます。

待ってなさい闇の城主さん。
お望みどうり、そっちに行くわ

「わっっ!」    先に入ったルカが、思わず声を出したので、皆、ビックリして気色ばみました。

どうしたんだと言う前に、皆、すぐに同様に驚きました。

目の前が・・・ないのです!
ニナは、危うく足を滑らせて、落ちそうになり、ゴーラが腕をひっぱりました。

「ない?!」レトとドランが同時に言います。
ルカが地面に這い、ギリギリまで身を乗り出し、切り落とされたような崖をのぞきこみました。

「いや。ある。城の気配がある、地面ごと、この下だ。」
そのときです。

ルカと一緒に、崖下を覗き込んでいたシロフクロウが、音もなく飛び上がりました。

「マルちゃんっ」ニナが思わず、叫びます。
シロフクロウは、小さく弧を描きながら、静かに暗闇の中に降りていきました。

「やれやれ、先をこされたな。降りるぞ」レトが少し笑って言いました。

暗闇に目が慣れてくると、少し先まで見えてきました。
足場のありそうな所を選びながら、少しづつ降りていきます。

「ニナ、大丈夫か?」すぐ先を降りているルカが、顔を上げ、ニナに声をかけました。

ニナは少しムッとしました。
「なによ。得意よっ。兄さんたちこそ、すべって落ちたら呼んでよね。私が魔法で浮かせて・・・・」

「ニナ?」 
ニナが、言葉を止めるので、すぐ上を降りてくるゴーラが声をかけました。

「・・・・・何か、来る。」

二ナの言葉に皆、動きを止め、気配を探りました。  音がします。 ざわざわと。 かすかな音。



呼んでいるのは闇の城主 挑んでいくのは白の魔女
おいで。おいで。さみしいの。
哀れんではいけないよ。その心だけが、ただ、彷徨っているのだから。



一番先を降りている、レトとドランは、暗闇に目を凝らしました。

光を当てれば見えるのでしょうが、なるべく見つかる危険は避けたいのです。

ざわざわざわ・・・音は、確かなものになりました。何かが、集団で這い登ってくるのです。

「蜘蛛?!」

レトの言葉に、ニナは声にならない悲鳴をあげました。顔面蒼白。パニック寸前。
「魔女さま、蜘蛛お嫌いですか〜」 のんきなゴーラの声に、ニナは切れそうでした。

「冗談なしだよ。レト兄!、城の東を守る闇蜘蛛だったら、猛毒持ってるぞ。」ルカが叫びます。


「やっかいだな。東側に配置されてる魔物が、なんでこっちに来てるんだか。潜入ばれたかな」
ドランが、急いで縄を出しながら言いました。

「たしかに、様子が変だ。ルカ!左下に光を落せるか?」
レトも縄を組みながら叫びます。

「闇の浮遊火程度なら、バレないと思うけど。こっちの姿も蜘蛛にみられるからね」


ルカは、小さな赤い光を手のひらに作り、飛ばしました。
かすかですが、一瞬、なんとなく、眼下に、木々が茂っているように見えました。

同時に!黒いじゅうたんのような、黒い波のようなものが、蠢き、登ってくる姿も見えました。

ニナは、口もきけません。毒なんて関係ないです。冗談じゃありません。


蜘蛛の集団は、獲物を確認し、方向を変え、スピードをあげて迫ってきました。

レトと王軍の戦士二人は、手馴れたものです。縄を付けた楔(くさび)を岩に打ち込みました。

ちょっと無茶ですが、崖を蹴り、皆は次々と縄一本を頼りに、一気に跳びました。


ルカはドランに。ニナはゴーラにつかまりました。

蜘蛛で、真っ黒になっている崖を通り過ごし、
こんどは、近くなった、眼下の木々に向かって、
勢いよく崖を蹴り、木の上に飛び込みました。

ニナは目が回りましたが、とにかく、
体に当たった木に、しがみつきました。

あちこち痛いと分ったのは、しばらく経ってからです。

「う〜〜蜘蛛なんか大っ嫌いよっ」

「ニナ、もんく言ってる暇ないぞ。来るぞ!」
レトが言いました。

「えええっ?」

蜘蛛は、ちょっとだけなら、跳べるのです。闇蜘蛛の集団は、次々と、木に飛び移ってきました。

「きゃぁぁぁ」こんどこそ、パニックです。ニナは、誰よりも早く、木を滑り降りました。

「ひどいわ、ひどいわ!よりによって、なんで、蜘蛛!正々堂々とかかってらっしゃい〜!」

あんまり悔しかったので、目の前の闇に向かい、理屈にならない抗議をしながら走りました。


逃げながら、回りを確認して、大体の位置がわかりました。
長兄と、仲間の二人も、闇の城を調べて知っていますし、なにより、ルカが詳しいので確かです。


地下水路から城内へ入る道を、ルカが知っていました。
もともと、ここから城内に入る予定でしたが、蜘蛛の追跡を逃れるためにも有効で、幸運でした。


いくつかの水路を越えて、大きな水門の下で、5人は一息つけました。


「魔物の統制が乱れてるのかもしれない。」ルカがいいました。
「おかしな雰囲気なの?」ニナが聞きました。

「うん。乱れてるというより・・そうだな。ほったらかしにされてる感じがする。」


そろそろ行こうかと、皆が立ち上がったとき、ニナが言いました。
「ルカ兄、マルちゃんがいない。」

言われてルカは首をすくめました。「マルは気まぐれだからね」

うそだ。と、ニナは思いました。

子どもの時から、ルカとの心的な繋がりは、本当に近いのです。

以前とは違う。どこか閉じているルカの感情が、ニナは、とても気になっていました。





                                            




                               集団になった虫族ほど、恐ろしいものはないです。
                                       あ。書いててジンマシンが・・。



                               おまけのマンガ「二ナのバレンタイン講座」