三つ子の魔法使い その6

闇の少女


異質なもの 理解できないもの 
わからないから、恐いのか。わかってしまったら、もっと恐いのか。


シロフクロウの背中にのり、
ニナは西の湖に向かって、飛んでいました。

そのとき、闇の気配を感じました。

二人の兄たちが通ったと思われる、
湖に続く小道を、空から見下ろします。

「マルちゃん、ちょっと降りてみて。」
ニナが言いますが、
シロフクロウは、聞こえないふりをします。

「ま〜る〜ちゃ〜〜ん・・・・」ニナは、フクロウの背中の毛をつかみ、すごみます。
それを聞いて、マルちゃん急降下。  なついてはいませんが、恐れてはいるようです。

小道に降りると、フクロウは、すぐに小さくなり、乗っていたニナは、ひっくり返ってしまいました。

「いたたた・・」
腰をさすりながら回りを見回し、闇の魔物の痕跡と、兄たちの気の後も感じ取れました。
「兄さんたち、魔物と遭遇したんだわ。」

ニナが、先を急ごうとした その時、小道の木々の陰に、小さな黒いものが見えました。
その異様な気配に、目を見張ります。

ニナは、その姿をみて、目を丸くしました。     「あ・・っ!あなたは・・っ」


夢で見た、ルカの記憶にいた小さな闇人が、
じっとニナを見つめて立っていたのです。

ニナは、闇人を間近に見たのは初めてです。

闇人は,ニナを指差し、くぐもった声で言いました。
「・・・・レトニイ?」

「なんですって?」ニナが言うと、また繰り返します。

「・・レトニイ?・・・レトニイ?」

ニナは、理解しました。
「違うわ。わたし、レト兄じゃないわ」と、答えると、

今度は「ニナ?」と聞いてきました。

ニナが、答えようとしたその時、


「ニナ!!」

その声に驚いて振り向くと、小道の向こうから、長兄が走ってくる姿が見えました。

「レ・・レト兄?!」       「ニナ!離れろっ!」     容赦のない剣先が光っています。

ニナは、さすがに驚き、身をすくませます。小さな闇人の赤い目が、少し驚いたようにクルッと光りました。

普段はよく見えない口が、うっすらと開き、耳まで裂けて笑ったように見えた、その瞬間。

胸を打つ衝撃が空気を揺るがし、小さな闇人は、掻き消されたように、いなくなりました。



「レト、レト兄、あの闇の子、ルカを探しているのかもしれない。」ニナは震える声を抑えていいました。

「ニナに、何か言ったのか?」レトは、剣をおさめながら聞きましたが、思い直して言葉を続けます。
「あとで聞く。それなら、なおのこと急いで戻ろう。走れるか?」

「もちろんっ」ニナは跳ねるように立ち上がります。

レトとニナは、急いで湖の魔女の秘密の家まで走りました。



何が良いのか悪いのか。真実はどこにあるのかは難しい。




レトが、ニナを迎えに行っている間、湖の魔女は、ルカの話を聞き、闇呪の事を色々調べていました。

闇鳥の襲撃の時、魔女が隠れていた地下室。ここが抜け道でした。
暗い地下を、どんどん下り、どうやら湖の下に位置するところに洞窟があり、そこに扉がありました。


「湖の魔女様。はじめまして。ニナと申します。」ニナは目上の魔女に対する正式な礼をしました。
「おやおや本当に、生粋の白魔法の気を持つ娘だね。」老魔女は嬉しそうに言いました。

挨拶も、そこそこに、ニナは、小さな闇人のことを、ルカに話しました。

ルカは声もあげずに驚きました。よほど、驚いたのでしょう。持っていた魔法書を、落してしまいました。

「ルカ?」長兄の心配そうな言葉に、ルカは肩をすくめてみせ、苦笑しながら言いました。

「そいつは・・・闇の城の城主だ」
ルカの言葉を聞いて、二ナは目をまるくしました。  レトは、ピクリと、方眉を上げました。

「こどもか・・やっかいだね」  湖の魔女は、溜息をつきました。

「互いに干渉しない条件に、闇国へ人質を出す事は、昔からよくあったがね、
今回は、なぜ、やたらと女の子を欲しがっていたのか。納得がいったよ。友達が欲しかったんだろう。」

ふと、せつなそうな顔をしたニナを見て、老魔女は言いました。

「哀れんではいけないよ。これほど、おそろしい相手はいないんだからね
闇に取り込まれた者は、仲間を欲し、闇を広げる。それが、子どもだった場合、欲する気持は最も激しい。

なくしたものを、欲しい欲しいと。せつないまでに永遠に求め続ける。
だから、ごらん、盟約を破り、人質に闇呪をかけて、欲しいもの全てを取り込もうとしている。」


ニナは目を丸くしました。老魔女の言うとうりです。
夢の中で、小さな闇人から感じたものは、闇だけではなく、永遠に癒されない渇きと、寂しさだったのです。
そして、そこに、他の感情はありませんでした。

震え始めたニナの手を、老魔女の、やさしい手が包みます。

「怯えるでないよ。人は誰でも闇を持つ。案外、闇の国の謎ときは身近にあるやもしれないね。」

老魔女は、灰色の魔法書を広げました。

「ルカの話から推測して、たぶん、これだろうね」

呪を解くには、まず、
その正体を知らなくてはいけません。

今は、ルカが自分で抑えていますが、
国に近づくと強くなり、抑えられないと言います。

どういう仕組みになっているのか。
ブツブツと、ああでもない、こうでもないと、
魔法書と、にらめっこです。

こういう事は、ニナとルカが得意です。
ここはもう、弟と妹に任せてしまおうと、剣士向きの長兄は寝てしまいました。

「レト兄、ずっと気を張ってたから。疲れてるんだわ。」ニナが、レトに毛布をかけながら言いました。

「そういえば、あの闇の子。私やレト兄の名前を知ってたのよ。ルカが話した?」

ニナの言葉に、ルカは絶句しました。
「話すわけないよ。闇の城で名前を口に出すなんて危ない事、絶対言ってない。」

「なんで、知ってたのかしら・・」
「そういえば、なんで、ここにいると知ってたんだろう。」
「そういえば、私があの子を見たのは、ルカの夢なのよね〜。」


少しだけ、沈黙した後、

同時に叫びました。  「わかったー!」


レトが、ビックリ、飛び起きます。

「二段重ねだったんだわ。な〜んだ、わかってしまえば簡単な」ニナは明るく笑います。
「笑えないっ。おれ、ずっと寝ている間、監視されてたってことかぁ?」ルカが頭をかかえます。

「起きてる時は気づかれるから、あの子は、ルカの夢の中で遊んでたんだわ。」

「どうしたっていうんだ」 叩き起こされた感の長兄に、ニナは、にっこり笑って言いました。


「余分な魔法がダブってたから、分らなかったのよ。ここからは私の分野よ。闇呪を消す方法を探すわ。」

レトは訳が分らず、嬉しそうなニナと、げんなりしているルカを、交互に見ました。





                                             



                                 
                                 ホラーになりませんように(祈)