三つ子の魔法使い  その3

選択

護るべきもの、成すべき事がある時、
それぞれの道を歩んでいくのも、選択の一つ。思いやりの一つ。
今が、その時? それとも、離れてはいけない時?


闇国との開戦は、夜明けまで待てませんでした。

うっすらと白くなり始めた闇の森の東側の空が、
目を射るように光り、皆はハッと顔をあげました。

白い光がドームのように盛り上がったかと思うと、
黒い闇の帯が、光を巻き込むように伸び、
また、その闇の帯を、別の光が押し戻します。

闇の森の空気が、痛いほど震えだし、
足元にも、怒りの振動が、伝わってきました。

三つ子の長兄レトは、本来は王の傍にいなくては
ならない立場です。戻らなくてはいけません。

唇をきつく結んで、異様な空の様を見ていたレトは、
弟を振り返って言いました。
「戻る。ルカ、ここで待ってろな。」

ルカよりニナの方が先に反応しました。
「レト兄!」

置いて行くと言うのかと、気色ばみました。

「オレが残るから」と、ゴーラが言いましたが、
ニナは納得できませんでした。


「レト兄が正しいよ。ゴーラも戻って。大丈夫。ここで待ってるから。」と、ルカが言いました。

うそだ。と、ニナは思いました。
ルカは、何かを隠している。ここで離れたら、二度と会えない気がして泣きたくなりました。

レトも、闇の国で何かあったのだと感づいているから、連れていけないと決心したのでしょう。
長兄の判断は正しいものでしょうが、ニナは嫌でした。

「私が残る。」ニナが言うので、皆が目を丸くしました。

「なぜ、驚くの。私が残る!一番合理的だわ。」

こうなると、てこでも動かない。妹の性格は知っています。
それに、ニナが傍にいた方が、ルカが彼女をここへ置いて何処かへ行くことはないでしょう。
考えている時間は、あまりありません。
レトは、仲間と共に、魔法戦の光で蠢く森の中に、走り去って行きました。



闇の森が、ぶつかる魔法の力で、震えます。
残ると言ったものの、今度はレトが心配でした。

レトたちのことですから、王様の陣営に戻ることは、大丈夫でしょう。でも、その後。

レトも、仲間も、ルカの闇呪のことは言わないでしょう。かといって、上手な嘘をつける長兄ではありません。
ルカの事ばかり心配して、責任を一身に背負っていったレトの事を考えていませんでした。

「ニナ。」 ルカが、声をかけました。ニナは、震えながら、無言でルカを見ます。

「ニナ、闇の城の裏にある山を見たね。
あれは自然に出来たものじゃない。
何かを封じてるらしいんだ。
ときどき、封じたものが、山から漏れ出していた。
あれは、白の魔法域の気だと思う。」

ルカは地面に地図を描きました。

「元々は、闇の森は、白の魔法域の森だったと思う。
ここと、ここと、この辺り。地脈が走るみたいにして
くっつけたような段差があるんだ。漏れてきたのを
塞いだみたいに見えたよ。」

ニナは、説明を聞きながら、ありとあらゆる魔法書の
文字を、片っ端から思い出していました。


「白の魔法域なら、私の分野だわ。流れを引き出す。でも、封じている闇呪を消さないことには・・」
ニナが言うと、
「それは、オレがやる。」とルカが言いました。

ニナは目を見開きました。・・・・なんですって・・・・。      「闇の魔法は・・・オレの分野だ。」

息を呑み、何か叫ぼうとする妹を制し、
ルカは、しろふくろうを呼びました。

「文句は後で聞くから。とにかく乗って。」

ニナも、顔をひきしめ、言葉を呑み込みました。
ルカに手をひっぱってもらい
しろふくろうに飛び乗ります。

「ギリギリまで近づくよ。
封印の弱いところなら、亀裂くらいは作れる。
ニナ、そこから、白魔法の気を呼び込めるか?」

ルカの言葉に、ニナはうなずきます。

ありったけの「気」を一気に高め集中します。
ニナの体が白く光り、
掲げた右手に魔力が集中しました。

怒涛のように、黒い渦を巻き、王様の軍に向かい襲い迫ってきた黒魔法の帯。
そのときです。

ドーンと言う地響きが、森の奥で聞こえ、足元を揺らしました。
陣に戻り、王様の傍らにいたレトたちも、その音に驚き、森の奥を見ました。

「闇の城の方角です。何か起きたんだ。」ゴーラが目を凝らします。「闇の森が、白く光ってます!」


おおおおーんと、不気味な音をたて、襲っていた黒い闇の帯が、跳ねるように飛び上がり、後退しました。
近づいてきた闇の馬に乗った闇人の揺らぐ姿も、掻き消えたようにいなくなり、闇の森が怯え震えました。


「王様、闇の森が!」側近の兵士たちが、叫びます。
闇の森の入り口に陣をはり、戦況を見ていた、年若い王様は、レトを振り返りました。

「レト、おまえが言っていた、山の封印が壊れたようだぞ。」

闇の森の奥に、一線の銀の光が走り、森の地がバリバリと音を立てます。
白い光が闇の森の奥からも覆いかぶさり、闇の魔法域は、挟み撃ちにあっている状態です。


今しがた、陣に戻ったばかりのレト達ですが、この好機を逃しませんでした。
馬に乗り、怒涛の勢いで、逃げていく闇の帯を追いました。
レトには、この状態が、誰の起こしたものかも察しがつきました。絶対、無駄にはできません。

おそろしい数の王軍が、なだれ込むように闇の森に攻め入り、闇の帯を追い、逃れる闇人を追いました。


闇の国は、それどころではない状態です。迫る白の魔法域と、後方から被さる魔法域。
白く煙る光に、闇の城が包み込まれそうになった、その時、


どん!という、胸をつくような音と、一瞬、目の前が真っ暗になりました。
闇の城は、自らを、封印し、黒い闇の帯に包まれ、まるで巨大な闇の卵のように沈黙しました。

ニナたちの国が、勝ったのです。

つかの間の、しばらくの勝利かもしれませんが、
闇の国は、不気味な沈黙の姿になり、闇の森は、いっそう、暗く、深いものになりました。


選ぶのは辛い。あきらめるのは辛い。
わがままなほどに、護りたいものが多いなら、その分、強くありたいと願う。




静かになった闇の森の中。

ニナは疲れていました。
限界を超えた魔力を使い果たし、眠り込んでいました。

フクロウの背中で、ルカにしがみつき、
空を旋回しながらの魔法は、かなり苦しいものでした。
自分の放った魔法が、恐ろしい力を解放し、
予想以上の効果に、驚き、怯え、疲れ果てました。

ルカは、二ナの傍らに、座っていましたが、
何かを覚悟するように、待っていました。

やがて近づく足音に、ルカは、少し緊張しました。
ゆっくりと、こちらに歩いてくるのは、レトでした。

「レト兄、一人で来たの?」と、ルカが聞きました。
「おかしいか?」 レトが聞き返します。

レトは、ルカの前に座りました。   「全部、話せ。」




                                        





                                           ★暗いので、息抜きに漫画描いてみました(^^ゞ