三つ子の魔法使い その2

闇を持つもの


闇から取り戻したものは、明るい笑顔と 安心。
でも、気をつけて。闇は、どこにでも存在するもの。不安や迷いに手を伸ばす。


5匹目の闇の番犬が、音もなく飛び掛ってきたとき、

レトの視界の端に、
「白い鳥のようなもの」が、ふと、映りました。
おかげで剣は闇の犬の急所をはずし、
絶命するまえに、仲間を呼ばれてしまいました。

「わるい。呼ばれた」
側の仲間に、そういうと、レトは白い物体に向かい
闇の中を、すべるように走っていきました。

闇の城の内部の情報は、
2年かけても微々たるものでしたが、
それでも、侵入者用に配置されている魔物などは
大体のところ分っています。

レトたちが突破相手に選んだのは闇の犬の群れ。
手強いですが、この群れは音を立てません。
唸り声すらあげない不気味な群れですが、
潜入には都合よかったのです。

ニナが意識の中に伝えてきた映像は、月の位置から考えて、闇の城の北側のようでした。

ここは、東側ですが、闇の犬の群れは中央から来ているようですので、
北に走りながら進めるのは幸運でした。

地形が変形型で、北に進むにつれて、坂を上りあがります。どうやら正門は南。
北は闇の山を背後にした裏側のようです。山の地形をそのまま利用してあり、
城が山に呑まれている様に見えます。

2年もの時間をかけたのです。できるかぎりの策は立ててあります。
ルカの奪還に、時間がかかったとしても、その頃には開戦を察知し、闇の森に注意が向くはずです。


そんな事を巡らせながら、レトは、白い物体を追います。 確かに羽を広げていますので
鳥のように見えますが、なんだか、そう・・ものすごく、ヘンなのです。

「レト、あれ、鳥か?あんな、まん丸な鳥、いるか?」 走りながら、仲間のドランが言いました。

その言葉が終わらないうちに、白い物体が、こちらに気がつき、
羽を広げて(たぶん羽)ジャンプしてきました。
ぼよ〜んぼよ〜んと、跳ねてくるので、レトも ドランも、その妙な動きに、あっけにとられました。


「レト兄!!うしろ!」

いきなりの叫び声に、レトは我に返りました。とっさに身を屈めると、耳を冷たい牙がかすります。
音もなく飛び掛る闇の犬をよけながら、喉元を剣で突き上げますが、自分も一緒に倒れこんでしまいました。

体の上に、どさりと圧し掛かる犬を、急いでどかし、声の主を目で追いました。
目の前に、巨大な鳥が立っていました。縦も横も、馬の三倍はありますが、
まさしく、これは、フクロウです。

「レト兄、怪我はない?」フクロウが首をかしげて話します。

レトは、なつかしい弟の声に、胸が痛みました。
「おまえ・・まさか、そんな姿にされたのか・・」悔しさに拳が震えました。


レトの言葉を聞いて、ドランが吹き出しました。
「レト、落ち着け、まん丸鳥の頭の上に乗っかってる奴、見てみなよ。」

言われて目線をあげると、銀の髪、そして、自分やニナと同じ、水色の瞳が見えました。



愛する故郷、護るべき国。大切なものを犠牲にして、一度は呑み込んだ意志。
後悔してる?償っていく?
三つ子の魔法使い どちらを選ぶ?



ニナと、ゴーラは、闇の森を北に向かって回り込んで進み、打ち合わせておいた場所に待っていました。
ここまで来ると、魔法陣は、かえって危険です。異質なものの気配を察知されてしまいます。
仕方がないので、闇に潜んで動きを待つ事にしました。

弓が得意なゴーラは、目が良いので、木に登り、少し高い場所から闇の城の動きを見ていました。

「あっ」ニナとゴーラが、一緒に声を出しました。
ゴーラがかすかに、白い物体が飛んでくるのを見つけたのと、ニナが気配を感じたのが同時だったのです。

巨大フクロウのおかげで、崖沿いに降りて、闇の森に入りこむ退路は、とても簡単でした。
三人背中に乗せて飛ぶには重すぎて、飛んで脱出というより、崖を回りこみながら落ちたという感じでしたが、
それでも、縄を使って、崖を降りていく計画より、随分スムーズに脱出できたのです。

フクロウは、「ホーロ」という魔物の雛でした。闇の城の魔物が、遊び半分にくわえてきたらしく、
それを、ルカが育てたようです。なついていて、離れませんでした。

レトは心配しました。
闇の魔物は、闇人にしか、なつかないとされているからです。
もし、ルカが、なんらかの闇の呪をかけられているとしたら、このまま国に連れて帰れません。
レトと、ドランと、ゴーラは、少し離れた場所で、ぼそぼそと、話し合いをしていました。


ニナは、ずっとルカの側に、ついていました。
「ルカ兄、少し、痩せた?」とニナが聞くと、ルカはクスリと笑いました。
「レト兄と同じこというね。レト兄やニナだって、ほっぺたが細くなってるのに。」
「そっか・・」

本当なら、人質に出されるのは自分のはずだったと知ったのは、ルカが闇国に行ってからの事でした。
どれだけ、せつなかったことか。

「ニナ。そんな風に思わなくていいんだよ」 ルカが言うので、ニナは、はっとしました。
子どもの頃と変わらず、心的な繋がりは、強いようです。

「自分より小さい子を出す方が、よっぽど嫌さ。だからね。」 ルカは、静かに言いました。


「だから、レト兄の方が、ずっと辛いと思うよ。」

うん。と、うなずく妹に、笑顔をみせましたが、ルカは考えていました。
自分は故郷に帰れない。
あの責任感の強すぎる長兄に、どうやって話そう。





                                        




                              ああ。かわいいファンタジーが遠のいていく。
                              次こそは、明るく。
                              兄さんたち相手に、二ナが炸裂。
                              こういうとき、末の妹は恐いもの知らずなのです。

                              三つ子の魔法使いの運命の選択。