おしゃべりな魔法書


3本目の銀の花は、なかなか見つかりませんでした。

今度は、見つけるための魔法を使うのかな・・と、
本が言いました。

「さっきの魔法、応用して、小鳥さんに聞いてみようかな」
ルルブが提案したので、本がビックリしたように言いました。
「あんた、鳥は大丈夫なの?
巣から落ちてた雛をみて、大泣きして走って逃げたって・・。」

「え・・なんで知ってるの?」
あわわと、本が慌てたように言葉を濁しました。

ルルブは立ち止まり、本に向かって話し始めました。
「あのね・・あなたの話し方・・どこかで知ってると思ってたの・・」
本は沈黙して聞いていました。
「コゼットって、お友達がいたの・・」
「・・・ふうん・・」

「ずっと前のことだけど・・コゼットの家、火事になって・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

「コゼットも、コゼットの、お母さんも、それから、いなくなってしまったの・・・
どこへ行ったのか、聞いても皆、悲しそうにして、
遠くへ行ってしまったのよって・・・・・。もしかしたら・・・・コゼット、あの火事で、もしかしたら・・・・」
「ちょ・・ちょっと、まってよ、ルルブ、あんた・・・・」

そのとき、ガサガサっと、草むらから音がして、ルルブは、ハッと顔をあげました。

キツネが一匹、ルルブにむかって、飛び掛ってきたのです。
ルルブが叫ぶより早く、きつねは、しゃべる魔法書に噛み付き、咥えて走り去ってしまいました。

「だめ!!まって!!返して!!」   ルルブは真っ青になって、キツネの後を追いました。

このままで、追いつくはずが、ありません。ルルブは走りながら、魔法の呪文を唱えました。
きつねの後ろ足が、ヒョイと空振りしたかと思うと、お腹から滑り込み、ひっくり返りました。

せっぱつまると、うまくいくもんだと思いながら、ルルブは再び呪文を続けました。
キツネの足に、草がからまり、もがいている所に、上から、のしかかり、押さえつけました。

「かえして!」
ところが、あんまり、勢いよく暴れこんだせいか、キツネは、思わず、
本を食いちぎってしまったのです。

ルルブは悲鳴をあげて、キツネをつきとばすと、ふたつに食いちぎられた本を掻き抱きました。
「コゼット!コゼット!」

赤い魔法書は、無残にちぎられ、もう、何も言いませんでした。
ルルブは、キツネにつかみかかるようにして、叫びました。
「なんてことするのよ!コゼットよ!コゼットかもしれなかったのよ!」
キツネの方が、悲鳴をあげそうになった時、

「ルルブ!」

後ろから、声がしました。

ルルブが振り向くと、そこには、同じ年頃の・・・・・
でも、背の高い女の子が立っていました。

「あんた、勝手に、あたしを殺さないでくれる?」
「・・・コゼット?・・・」
「夏休みになったから、なつかしい故郷に帰ってみたくなってさ。
皆を驚かそうと思って知らせなかったのよ
そしたら、大変な事になってるじゃない。先生に聞いたら、成績が悪いわけじゃな・・・ルルブ?」

ルルブはコゼットに、しがみついてきました。
「あんた、人の話、聞いてないでしょ。」  コゼットは、ため息をつきました。

「魂だけが、本に戻ってきたのかと思った・・・」 ルルブは呟きました。
「ひとを、オバケだと思ったの?家が燃えちゃったから、おばあちゃん家に引越したのよ。」
遠くへ行ったというのは、本当ねと、ルルブは、くすくすと笑いました。


「あ、銀の花・・!」  ルルブは、慌てました。せっかく取った2本も、どこへいったやら・・。
もう、6時です。キツネのことを話して、追試の追試を頼み込むしかなさそうです。

コゼットは、とても優秀な魔法使いのようでした。少し離れて付いてきて、
水晶玉で、様子をみながら、声だけ、魔法書から繋げていたのだと話してくれました。

「あたし、14歳になったら町の魔法学校に行くわよ、ルルブも来るでしょ」
コゼットの言葉に、ルルブは、にっこり笑って頷きました。

 

白の森の入り口で、先生が待っていました。
色とりどりの、帽子をかぶった、学校の友達も、待っていてくれました。

コゼットが、俯いて近づくと、先生は、ギュッと抱きしめてくれました。
「おめでとう、がんばりましたね。みごとな魔法でしたよ。」

わっと、皆が歓声をあげてくれました。ルルブは合格したのです。

嬉しくて、ルルブは先生にしがみつきました。すると、「うっ」と、先生は顔を歪めました。
「先生、どうしたの?ケガしたの?・・なんか、ボロボロみたい・・顔、泥だらけだし・・」

ルルブに言われて、先生は笑いました。
「う〜ん。あそこまで、やられるとは計算外だったわ」

「そりゃ、合格ですよね。先生、ルルブの魔法を、身をもって体験したもの。」 
ニッコリ笑うコゼットを見て、
先生は、人差し指を唇に当てて、(シーッ)と、ウインクするのでした。