・・・・・・・おのれ 小賢しい王子よ。こんなところまで来ていたのかい・・・・・・・・・
とっくに、牛にでも潰されていると思っていたものを。

言っただろう。もしもカエルのお前を好きだと思ってくれる娘がいたら、魔法は解けるだろうが
どんなに探しても、カエルを 本気で好きになる娘がいるものか。

おまえの呪いは解けやしない。せいぜい その醜い姿で土の上を這い回るがいいさ。
ほーっほっほっほっほっ・・・・・・


かえるの王子 後編

井戸に落としたマリを とってもらうかわりに、
カエルと約束をしてしまった王女様。

一緒の食器で食事はしました。ひとつクリヤー。
そして、もうひとつ。
お姫様のベットで寝かせてあげる約束。

カエルは、とっても嬉しそうに、
ふわふわのベットにピョンと乗りました。

「お姫様、ほんとに、ありがとう。
嫌な思いさせて悪いと思ってるんです。訳はきっと・・」

そこまで言うと、カエルは眠ってしまいました。

お姫さまは、ため息をつきました。
でも、あんまり幸せそうな顔で眠っているカエルを見ていると、なぜか、嫌な気持ちはしませんでした。

「考えてみたら、私が悪いわ。あなたは何も悪い事してないのにね。」
眠っているカエルに、そっとシーツを かけてあげました。
「疲れたでしょう。隣の国から来たって言ってたもの。大変だったと思うわ。ゆっくり おやすみなさい。」

そして、ランプのあかりを、小さくしたとき、


一瞬!ほんの一瞬ですが、ベットの上に、カエルの代わりに  人の姿が!

「きゃー!!」

びっくりしたのは、カエルです。飛び起きてしまいました。 「どどどどど・・どうしたんですかーっ!」

「どうしたも何も、今、今、そこに、誰かが寝てたのよ!!あなたじゃなかったわ!男の子だったわ!」

目を丸くして驚いている王女を見て、カエルは言いました。
「もしや、お姫様、ちょっとだけ、ボクの事を、いとしいな〜なんて思って。。わーごめんなさいっ!

姫が拳を握りしめたので、カエルは慌てて あやまりました。

「やっぱり、あなた。ただのカエルじゃないわね。白状なさい。事と次第によっては許さないわよっ!」
お姫様の剣幕に、カエルはオロオロしてしまいました。

「正体バレたら困るんですよ。それでなくても魔女はこの城まで狙ってるみたいだし。」
「なんですって?」

あわわと口を押さえるカエルを、お姫さまは鷲づかみにしました。  「はっきり言いなさいっ!」

そのときです。

バタバタと、ランプの灯りが揺れ、
窓も開いていないのに、気味の悪い風が舞い、
部屋中を黒い影が、大きく揺れました。

カエルと、お姫さまが目を丸くして見ていると、

揺れ動く影が、見る見る人の形になり、
黒いフードを頭から被った老婆が現れました。

お姫さまは、カエルを掴んだまま声も出ません。

「王子よ。こんなところにいたのかい。

隣国の王女に近づくとは、たいしたカエルだよ。
すぐに、踏み潰しておけばよかったねぇ」

フードの下から、黄色い目が覗きます。

「やかましい!。おまえこそ、ずっと独り身だった親父を、美人の後家さんに化けて騙したくせに!」
カエルが、姫に掴まれたまま叫びます。

お姫様も、これで事情が呑み込めました。「昨年、后になられた方のこと?」
そういえば、隣の国がおかしいと、父王が言い出したのは、それからです。


魔女は、じりじりと、王女に近づいてきました。
「かわいい王女だねぇ。ちょうどいい。おまえも仲良くカエルにしてやろう。どうせ、この国も頂くのさ。」

お姫さまは、さすがに恐くて すくんでしまいました。魔女は、迫りながら呪文を唱え始めます。

「姫、いいものがある。そのまま後ろに下がって。」 
掴まれたままのカエルが言いました。
「後ろ?」王女は、背後のカーテンの後ろにあるものを知っているので、ハッとしました。姿見の鏡です。

「あの呪文は一度聞いてます。合図でカーテン開けますよ」
カエルの意図を察して、お姫さまも覚悟を決めて頷きました。

不気味な呪文が ぐるぐると渦を巻き、爆発寸前! 

「いまだっ!」

お姫さまは、背後のカーテンに飛びつき、
引き剥がすように倒れこみながら開きました!

いきなり、魔女の目の前に、自分の姿が!

「ぎゃあーぁぁぁぁぁーっ・・・・・」

魔法の渦が、爆発し、嵐のように暴れます。

魔女は自分の姿に魔法をかけてしまいました。


渦巻く嵐が おさまって、お姫様が目を開けたとき、目の前に、カエルが お腹を見せて転がっていました。

「か・・カエルさんっ!カエルさんっ!しっかりして!」姫はカエルを両手で包みました。
カエルはグッタリして、動きません。

「神様、どうかカエルさんを お助けください。大切な友達なんです。お願い助けて!。」
お姫さまは、とうとう泣き出してしまいました。
「カエルさん、カエルさん。しなないで。」

そのときです。お姫様の後ろ。部屋の隅が、光はじめました。 「えっ?」

小さなカエルがもう一匹、部屋の隅でひっくり返っていて、それが光っているのです。
「えっ?カエルが2匹?あれ?なんで増えてるの?」


光っている方のカエルは、やがて人の姿になり、
ゆっくりと、体を起こしました。

見覚えのある顔。隣の国の、王子でした。

「あなたはっ!え?じゃ、こっちは?」 
どうやら 自分の魔法にかかった魔女のようです。

「どうせなら、本人相手に言って欲しかったな〜。」
王子は、座り込んだまま、苦笑しました。

「ありがとう。ここまで来た甲斐がありました。
解いてもらうなら、あなたしかいないと思ったんです。」

王子はニッコリ笑いました。


                      その後の話。


「おやおや。王子殿。明日には城から迎えが来るというのに。なんでまた、その姿に?」

王様は、びっくりしました。朝食の時までは王子の姿だったのに。
となりの国の王子は、また、カエルの姿になって、椅子にポツンと座っているのです。

「それがですね。今、姫が怒ってるんです。」  「なんと。」 王子の言葉に、王様はキョトンとします。

まだ、魔法は完全に解けたわけではないようです。
ケンカして、姫が怒るたびに、カエルに戻るのです。乙女心は揺れるのです。

「前途多難じゃな〜」王様は笑いましたとさ。




おしまい

   ありがとうございました            
 

物語に登場するカエルは、たぶん、緑色ではないと思うのですが。
ここはもう、ビジュアル的に、やっぱり緑にしました。