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「うそつけーっ!!!」
岩山が震えるような怒鳴り声が響き渡る。
怒鳴ったのは、山の岩盤から顔と手だけを出した小さな猿。
毛を逆立て、金色の眼を光らせている妖猿だった。
怒鳴られたのは、その猿を、おもしろそうに見ている旅のおとこ。
おとこが乗ってきた馬の方が、怯えて後ずさりした。
「何が嘘だ。おまえが名前を聞いたから答えたのだろう」
馬を、なだめながら、男は言った。
猿は目を丸くして、目の前の旅人を見る。
浅黒い顔、旅なれた服装。およそ、都の高僧とは思えない風体だった。
これが、三蔵法師?がっちりしすぎてないかぁ?
この山に閉じ込められ、いったい、何百年待っただろう。
天竺までの、三蔵法師の護衛を条件に解放されると待っていた。
「天竺まで、経典を取りに行くのだろう。三蔵法師なら、天上の奴らから、
袈裟やら名馬やら、宝物っぽいもの貰ってるはずだ。」
「ああ、売った。」男は楽しそうに笑う。
猿は、あっけにとられて口を開ける。
「道中、いろいろあってな。貧しい者の為に使う分にはいいだろう。
それが罰当たりというのなら、経典など価値はない。」
三蔵は、猿の近くに、体をしゃがませる。
「おまえが、その昔、天上を騒がせた妖猿か」
動けない猿は、腹が立ってきた。ざわざわと、毛を逆立てる。
「だったら、どうした。お前のような、たかだか人間が・・・見て楽しいか。」
猿に睨まれて、三蔵は静かに呟く。
「いや。・・・むごいことをすると思ってな」
言われた猿は、赤い顔を、ますます赤くして怒り出した。
「俺は斉天大聖孫悟空だ!人間に哀れまれ☆ж○×!#ё★!・・!!!」
あんまり腹がたったので、自分でも、何を言ってるのか分からない。
喚く猿を、おもしろそうに見ていた三蔵は、静かだが重く呟く。
「ついてくるのか、こないのか。」
猿の怒りは頂点に達し、それが、かえって我に返らせる。
「札を取ってくれ。」 猿が言う。
猿の頭の上に、札が貼ってある。呪札だろう。
三蔵は何やらブツブツと唱えながら、札に触れる。札は、はらりと落ちた。
「へぇ。高僧ってのも、まんざら嘘じゃないらしいな、おっさん。」
言うと、猿の眼が燃えるように光リだし、岩山が地鳴りを始めた。
「ふもとで待っていろ!」猿が叫ぶ。
三蔵は、また怯え出した馬に乗り、地鳴りで震える山を下っていった。
ふもとまで降り、振り返る。耳を覆うような地響きと、天をも振るわせる激震。
悲鳴のよう嘶く馬を押さえながら、三蔵も身を屈めた。
もうもうと、立ち込める砂ぼこりの中、静かになった足元に気がつき顔を上げる。
岩山が崩れ、瓦礫の裾野が広がる。
さすがに驚いた様子の三蔵に、砂煙りの中から声がかかる。
「どうだ。人間。これが斉天大聖だ!」
自由になった体を、おもいきり伸ばし、胸をはる妖怪猿がいた。
三蔵は、にっこりと笑って言った。
「では悟空、今日から、お前は私の弟子だ。こころして御仏に仕えるように」
「げっ」
「斉天大聖は、嘘をつくのか?ついてくるのだろう?」
言われて悟空は言葉につまる。だが、なんだか納得いかない。
人間のくせに、人間のくせに・・・。
「天竺で、おまえが経典もらったら、一発殴る!」
三蔵は、くったくなく大きく笑った。
「無事に着けたらな。」
「その言葉、わすれるな・・って、ちょっとまてー!」
馬に乗って先を行き始めた三蔵を悟空が追う。
「人の話を最後まで聞けーっ」
砂けむりの中、悟空の声が遠くなる。

次は、八戒さん登場。
悟空、またストレス溜まりそう・・・(^^ゞ
あとがき 三蔵法師は実在の人物で、経典を求め、旅をしたのも史実。
と、なると、きっと、こんな感じの人ではないかと、勝手に想像します。
あの時代、そんな事を思いつき、実行するなんて、
どういう人物だったのだろうと考えたとき、こんなになりました(^0^)
悟空は、石から生まれた妖猿です。生まれて、すぐ、仲間を欲して、
猿の王様になったり、強さを求めて仙人に弟子入りしたり、それでも足りなくて
天上界への出世をもくろんだり・・。
悟空は、比類のない強さを持ちながら、ずっと、何かに飢えていた。
そんな感じがするのです。
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