三つ子の魔法使い その10(完結)

命の行方


与えられた命を、どう使う?運命を決めるのは自分。


「王様!王様!」

闇の城を囲む王軍に向かい、伝令が走ってきます。
「王様、闇の城に入ろうと切り込んでいたら、ゴーラとドランが中で戦ってましたが、へんなんです。
外へ出る闇の兵より、奥へ行く兵を止めてるんです!」

戦装束の王様は、驚きましたが、「三つ子は!?」と聞きました。「いませんでした!」
王様は、少し考えてから言いました。「ゴーラとドランに任せよう。従うように伝えて来い」

闇の城は、いつのまにか、黒い封印の帯を解き、その姿は変動に怯え怒るように震えていました。



ここは、闇の城の儀式の間。

「ニナ、ニナ」 名前を繰り返す闇の少女。
ニナは、少女を睨みました。
「そうよ。来たわよ。でも遊びにきたんじゃないわ」

鏡は、渦を巻く水のなかに、墨をこぼしたように。
うごめき、混じり、不気味にオオオォーンと響きます。

床を壊して暴れ出た闇のフクロウは興奮気味です。
「マル!ニナを乗せてきてくれたのか?!」
フクロウをなだめながら、ルカが言います。

「ルカが命令したんじゃないのか?」
レトの言葉に、ルカは首を振りました。





「逃がしたんだ。ここにいたら、マルまで巻き込まれる」 ルカは困ってしまいました。

レトは、剣を抜き、叫びました。

「ニナ!ルカの闇呪文を解くのが先だ。その城主は任せろ。ルカ、鏡の前に早く!」


そうです。体の中の闇の気がなくなれば、フクロウは、ルカから去っていくでしょう。
ルカも、レトの意図に気がつき、鏡に向かって走りました。

ニナも、ルカと同時に鏡に向かって走りました。「そこ、どいて!今は、あそんであげる暇ないの!」

ニナの体が、白く光ります。白魔法の光に、一瞬たじろぎ、闇の城主は、後ろへ飛びました。
飛んだところへ、レトの剣が、容赦なく襲い、小さな闇人は、さらに後ろへ追われます。

その隙に、ニナとルカは鏡の前に立ちました。


「ちょっと、待って。静かにさせる。」ルカは、闇の呪文をとなえ、両手をかざし、うごめく鏡を沈めます。
渦を巻く様が消え、どんよりと闇を映す鏡に、ルカが映りました。

「映った!ルカ兄!動かないで!」

白い光が、帯状になり、二ナを包むように回り始めました。
それに反応して、鏡が震えだし、ルカを映す鏡が、盛り上がり、沈み込み、唸り声をあげます。
「わっ。気分悪〜。」ルカは酔いそうです。


儀式の間の中央で、レトの剣と、城主の闇魔法の攻防が続く中、
ニナは、呪文を唱えながら、ゆっくりと、正確に、両手で呪文字を描きます。
まだ、小さな魔女ですが、彼女には、古い古い祖先から受け継がれてきた魔法使いの血があります。

鏡に映ったルカの姿が、溶けるように回り始め、ルカは気分最悪。ひっくり返ってしまいました。


その音に気がつき、城主が悲鳴をあげました。
レトに背を向け、闇の帯をニナに向かって飛ばします!

「ニナ!」レトが叫びます。
ニナは呪文の途中です。ルカが気がつき、ニナをかばって、つきとばしました。


放たれた闇の帯は、鏡を直撃!

「やばっ!」  ルカは、あわててニナを抱えるように引っぱりおこし、鏡から離れました。
ニナは、慌てました。 「まだ途中よ!ちょっと!ルカ兄!」


うごめき、苦しんでいた闇の鏡は、いきなりの衝撃に狂ったように蠢き、やがて、真っ黒になりました。
闇の沈黙を映します。

目を丸くして見ている三つ子の魔法使いの前を、闇の城主が、ヨロヨロと鏡に近づいていきます。

「危ない!」ルカが思わず城主に向かって身を乗り出しますが、レトが腕をつかんで止めました。
2年も、側にいたのです。情もあるのかもしれません。長兄が一番恐れている事でした。
止められてルカも、はっとしました。
ゆらゆら歩いてゆく闇の少女を見つめ、ふと、兄と妹を振り返り、その心配そうな顔を見てしまいました。

時が止まったような中、かすかに声がします。

それは、鏡の中から。小さな、かぼそい声。
でも、やさしい少女の声。

(おいで・・おいで)

闇の少女は、静かになった鏡を見ました。

鏡は、少女の姿を、うっすらと映します。

怨念の闇をまとった、闇人の姿ではなく、
あま色の、おさげ髪の少女が映っていました。


突然!  鏡が揺れ始めました。  こんどは、黒い渦ではありません。

不気味な虹の色とでも言いましょうか。シャボン玉が割れる前の、あの動き・・・。

「鏡が!」
ニナは、絶望の悲鳴を上げそうになりました。

目を開けていられないほどの閃光。ビリビリと震える振動が床まで響き、
立っていられないほどの衝撃が襲います。


鏡の前に立つ、小さな闇の少女の体が、白い光の中、砂のように崩れていくのが見えました。
ニナは、声にならない声を押し殺し、目を丸くしました。

崩れて消えるとき、少女の横顔が笑っているように見えました。
誰かが、迎えにきたように、両手をさしのべ、そのまま、砂が散るように消えました。


ニナは、こんどこそ悲鳴をあげました。「ルカ兄!ルカ兄ー!」

消えてしまう。魔法は間に合わなかった。

ルカにしがみつき、連れて行かれると。消えてしまうと思い、必死に掴んでいました。





どのくらい時間が過ぎたでしょう。


部屋中を包んでいた閃光が消え、黒い渦を巻いていた鏡は、うすく、白い光に包まれていました。
やがて、その光が消え始めると、闇の気が、城内から消えていくのが分かりました。

目を開けると、キョトンをした、フクロウと目が合いました。「マルちゃん、無事・・」ニナは、ほっとしました。

「そうだ!ルカ兄は?!」ニナは叫びました。

「う〜。苦しいんですが〜。」ルカの声です。ニナは、ルカを掴んだまま、ギリギリ締め上げていました。


振り返ると、鏡も無事でした。
闇の気配もなく。普通の鏡になっています。

「ルカ兄、何ともない?ねぇ。消えそうじゃない?」
ニナは、もう泣きそうです。

「うん。ありがとう。闇呪、なくなってるみたいだ。」
ルカは、少し笑って見せました。

今度は、ウソではないと、ニナは分かりました。

ルカとニナは、二人して、
長兄に、ギュ〜ッと抱きついたのでした。


ニナの魔法は途中まででしたが、闇の領域に、白魔法を入れ込んだ時、
さまよう魂と残された怨念が、ふと、繋がったのでしょう。
置いてきてしまった、自分の生きていた頃の闇の心を受け入れ、全てを含めて自分を受け入れたとき
やっと救われるのかもしれません。

少女の魂は、残してきた自分の闇を、ずっと見ていたのかもしれません。



その後の話

レトは、久しぶりに、戦装束をはずしていました。この2年。一番苦しかったのはレトでしょう。
王様も、よく分かっていましたので、これから先は、なるだけ願いどうりにしてやろうと思っていました。

城のバルコニーから、規模が小さくなった闇の森を眺めながら、レトは、王様に報告していました。


「闇人は、消えましたが、もともとからの闇の森や、闇の魔物は、あのままです。
ルカの闇呪は消えましたが、体の変化はあのままです。いまだに、あいつ壁抜けやりますから・・。」

「さまよう魂と、生きている魂と体を持つものの違いがあるのだろうな。
だいたい、人間だって、闇の心は誰しもあるもんだ。」王様も、闇の森を眺めながら言いました。


闇の謎の解明は、まだまだこれから。王様は、ルカに闇の魔法の研究を続ける事を許可しました。

リスクもありますが、敵を知ってこその攻略です。
今回の事でも、ルカの闇の知識がなければ成されなかった事でした。

「諸刃の剣ですね。悪用するものも出るでしょう。異論を唱えるものも・・」レトが言います。

「そこだ、それ、教育というものが重要になってくる。」王様が言います。

「ここ2年は、国力つけるのに手一杯だったからな。これからは、ひととなりを育てる教育だぞ。」
王様が、はりきっているので、レトも笑いました。

「ルカは闇の森近くに住むと言ってるが、気を使っているのか?二ナも、おまえも心配だろうに。」

「いえ。しょっちゅう、行き来はしてますから。ニナなんか、ルカの家に、いりびたりです。」

「あ?」目を丸くする王様に、レトは苦笑しました。

「マルが、卵を温めてるんですよ。もうすぐ孵りそうだというんで、もう三日も泊り込んでます。」

闇の城の本を、運び出しているところです。私も、お手伝いです。
貴重な資料も多くありますから、王様は、この城を、国で管理すると言いました。

マルちゃんの子どもの名前を考え中。今度は私が名前をつけます。
ルカは適当すぎるからダメ。かわいい名前を考えなくっちゃ♪
ピーちゃんってどう?


 おわり


    ありがとうございました。m(_ _)m