昔の話です。

ある家に、軍鶏がいました。名前は、「ピーちゃん」です。

いかつい顔をしているのに、なにがピーちゃんだと思われる事でしょう。でも、
卵から孵った時は、たしかに、「ピーちゃん」だったのです。


すっかり大きくなって、いかつい顔の軍鶏になりましたが、
家人にとっては、かわいい「ピーちゃん」です。


ある、晴れた日の午後、おくさんが、庭を掃除するために、
格子戸を開けていました。これが事件の発端でした。


散歩中の近所の犬が、巨体を躍らせて、庭に飛び込んできたのです!。

田舎道と思って、飼い主が鎖をはずして散歩させていたらしく、
庭で、のんびり草をついばんでいた軍鶏を見つけて、襲い掛かったのです。

あっという間に噛み付き、振り回すのです!おくさん真っ青です。

「きゃーっ何するのよ何するのよ!ピーちゃんがぁぁぁ!」


犬の飼い主が、何とか引き離しましたが、軍鶏の体は血まみれです。
「ピーちゃん!ピーちゃーん!」
ピーちゃんは、返事もなく、グッタリしています。


犬の飼い主は、「すみませんね〜。放してたもので。」
と、結構ケロリとしています。

だって・・鶏ですものね。

「お医者に連れて行ってください!」
「えっ?」
「えっ?じゃありません!あたりまえじゃありませんか!」
救急車を呼んでくれと言わんばかりの剣幕に、犬の飼い主は、大慌てです。


さすがに救急車は無茶ですので、犬の飼い主が車を出してくれました。

「えーと、どこへ連れて行きましょうか」と聞きます。
「お医者様です!」と、おくさん。
「えーと、獣医さんですよね(汗)」
「あたりまえです!」


さて、こちらは獣医さん。

午後の診療が始まって、
かわいい猫ちゃんやワンちゃんを、診ていました。

そこへ、嵐が!

「先生!お願いします」
「おや、○○さん、お宅のネコちゃんがどうかしましたか?・・えっ!!」


腕に抱えているのは、いつもの猫ではなく、いかつい顔の鶏。

「助けてください」
「あの、それは」
「軍鶏です!」
「いや、それは、見ればわかりますが。たしかに軍鶏です」

「犬に噛まれたんです。ひどいんです。いきなり飛び掛ってきて・・!」
「いや、だから、それはお気の毒ですが、あの・・」

「傷がひどいんです。ぱっくり開いて・・縫ってください!」
「残念ですが、私は軍鶏を診た事などないのですよ(大汗)」

「大丈夫です。軍鶏は麻酔なしでも痛がりません。私が抑えてますから」
「いや、そういう問題ではなく・・」

獣医さんは半分パニック。

「わかりました。鶏を縫うのは初めてですが、治療しましょう」


こうして、ピーちゃんは、手術室へ。

さすがは軍鶏です。騒ぎません。いかつい顔は伊達ではないのです。


手術用の大きな電光が、ピーちゃんを照らします。

「本当に暴れませんか」
「大丈夫です」
「では、縫いますよ」
   チクチクチク・・・・
「ね。ケロッとしてるでしょう」おくさんが、勝ち誇ったように言います。
「おとなしいですねー」獣医さんも、ホッとしました。

軍鶏は闘う鶏です。血や傷で騒いだりしないのです。

最後まで、動かなかったピーちゃんを獣医さんが誉めてくれました。
強いですねと、感動されました。


ピーちゃん、えらかったね。よかったよかった。
薬も頂き、術後の注意事項なども、親身になって教えて頂いたそうです。

こうして、ピーちゃんは一命を取りとめたのです。
獣医さんは、ピーちゃんの命の恩人です。


感動の物語を聞きながら、よかったよかったと私も思いましたが

今頃、獣医さんは、感動の余韻に浸るというよりも、
なんで、あんなに感動したのだろうと、
我に帰ってらっしゃるだろうと想像しておりました。


だって。鶏ですもの。



   

戻る


銀の鏡TOPへ



 
あとがき


軍鶏の顔はいかつくて、睨んでいるような眼が綺麗です。
毛並みは黒く光り、立ち姿は凛として誇り高く、とても美しいと思います。

傷を縫うから、ちょっと抑えといて。と私も頼まれたことがあります。
えええっとビックリしたのですが、
とにかく動かさないようにと両手で両肩を抑えていたのですが、
ほんとうに、凛とした立ち姿のまま、動かないのです。
なんてカッコイイのだと惚れ惚れしました。

太く短く鋭く鳴くのが強い軍鶏だと聞きました。
「こっけこー・・こっ!!」
と、いきなり止まるので、コントをかまされたように(失礼)ひっくり返りそうになります。

闘争本能に焔がついた軍鶏の立ち姿は、本当に美しいと思うのです。
と、いっても、雄同士が睨みあう場面を見ただけなのですが(^ ^;)ゞ

このお話は、ほぼ実話です。
以前、動物サイトさまに投稿したファイルを見つけましたので
記念にと思ってUPしました。

ここまで、お付き合い下さって本当にありがとうございます。
m(__)m



 
戻る


銀の鏡TOPへ