ねむり姫





暗く深い森の中、パチパチと、焚き火が小さな音を立てる。
木々の隙間から、黄色い狼の眼が見えるような気がして、また、火を大きくする。


森の中、迷ってしまい、とうとう野宿。
オレは猟師の息子だから、森で夜明かしは、慣れている。
だけど、今日は自分だけではない。
なにせ、一国の王子と二人、ここにいるのだから、まいってしまう。


「世話をかけてしまうね。そんなに気を使わないでくれるといいんだけど」
王子が火の向こうでにっこり笑う。

「あのですね!いわんこっちゃない! だから、この森はダメだっていったでしょ」
歳も近いし、つい、いつも、こんな口を利いてしまう。

王子は、それには答えず、暗い森の奥を見る。

「昔、ここに小さな国があったらしいね。魔女の呪いで封印されていると聞いたよ。」
思わず、ハッと王子の顔を見てしまった。

「やっぱり、うわさは本当なんだね。」
火が小さく揺れて、影をおとした王子の顔は、少し真剣になっていた。


「えーと・・その・・。」
どういったらいいものか・・呪われている、この森の事は暗黙の禁句。
「この森は、迷うんですよ。慣れたものでも、戻らないままの者がたくさんいます。」

「あの、いばらの向こうに何かあるのかな」
王子は遠い目をして、とんでもない事を言う。
「だっ・・!だめですよ!・・って、何身支度始めてるんですか!」

目の前の王子は剣を腰に収め、立ち上がっていた。
「様子を見てくるだけだから、ここにいていいよ」

はいそうですかと、言えるか!
あわてて弓を取り、森の奥へ進み始めた王子を、追いかけた。




「小さな頃から、よく、いばらの森の夢を見るんだ。呼ばれているのかな。」
いばらを剣で払いながら、王子は薄気味悪い事を言う。

「いばらの呪いに閉ざされた国の話、知ってるんだろ?。」
王子の言うとうり、それは、この森に伝わる話で、暗黙の禁句だった。

「それ、おとぎ話ですよ。」
ぶつぶつ言いながら、ついていくオレを振り返って、王子が立ち止まる。

「来月、王位継承権の正式な儀式があるんだ。そうしたら、もう、機会はない。」
あんまり真剣な顔なので、困ってしまった。
「あなたに、もしもの事があったら、どうするんですか。」

「別に・・」
と、笑いながら、王子は、再び剣で、いばらを切り進み始める。
「姉上たちの夫のうち、誰かが、おさまるだろうさ・・。」

「げ・・あの公爵たちの中の誰かですか・・・いけすかな・・・・・・。」
つい、うっかり、本音が出て・・オレは慌てて口を抑える。

王子は無反応。
聞こえない振りをしてくれたらしくて、ほっとした。



どのくらい、いばらの中を進んだだろう。
うっすらと、明るくなってきたような気がする。

「出口だ!」
いばらの森をぬけた!


いつのまにか、白々と夜明けが近づいていたらしい。
ほんとうに、あの、いばらの中をぬけてしまった。

そして、

驚愕した。


ほんの、目の前、オレの足もとに、 人間が  転がっていた。

「わっ!わわっ!・・わっ!」

それは、農夫のようだった。
鍬を、もったまま、眠るように倒れている。


王子は、何も言わず先へ進んでいく。   何かに呼ばれるように。


「本当だったんだ・・・」
いばらに巻きつかれ、埋もれてしまっているが、
少し掻き分けると、壁や、石段、建物らしきものが、確かにあった。

そして、 人間が、あちこちで眠るように倒れていた。

「呪いだ。」 足が震えてきた。


「あれだ。」
王子の言葉に、我に返り、王子の指差す先を見た。

見上げると、薄暗い空に、いばらに巻きつかれた廃墟のような塔が見えた。
城だった。かろうじて、いくつかの、城塔だけが、頭を見せていた。


「姫が眠っている。」
「姫?」 王子の言葉に、目を丸くしてしまった。

王子は、なおも進もうとする。
はっと、我に帰って、王子の前に回りこみ、とめた。  これは・・ダメだ!。

「呪いです!関わってはいけない!この人たちは、この世の理の外の者です!」

眠っている。もう、何百年もの間。
呪いをかけた魔女も、いくらなんでも寿命は尽きてる。

呪いだけが、残っているのだ。