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桃太郎(完結編)
見上げるような巨体が、わなわなと、怒りに震えているのがわかる。
鬼の大将の、あまりの形相に、手下の鬼達は、じりじりと後ずさる。
足元には、履いて集めれば荷台に山となりそうな大蜂たちが落とされていた。
地面を這うように広がる土煙と、一面の蜂の残骸が混ざり合う中、
鬼が島の鬼たちは、始まろうとしている大将戦に、息をのんだ。
ぶんっと大きな、こん棒が、なぎ払うように振り回される。
当たれば、ひとたまりもない。桃太郎は身を沈め、こん棒をかわすが、
三度目の攻撃で、風圧でハチマキを飛ばされた。
「あっ!ばあちゃんが作ってくれたのに。」
「よそ見をするなー!!」仲間の三匹が、そろって叫ぶ。もうハラハラする。
犬は、気が気ではないが、割って入れるような戦いではなかった。
桃太郎も、かわしてばかりではなかった。
鬼の懐に入る込む隙を狙う。
怒りで、大振りになっている鬼のこん棒をかわし、一気に体を入り込ませる。
ありったけの力を込めて、肘や頭突きでダメージをくらわせる。
鬼の大将は、その力に驚いた。
体は小さいが、岩のように硬い。桃太郎は、たしかに人間離れしていた。
「おのれ。小僧〜〜。」
鬼の大将は怒り、ものすごい風圧を起こして、こん棒を振り下ろす。
こん棒をよけた桃太郎が、さすがによろけ、その襟首を鬼の手が後ろから掴んだ。
「わーっ!ももたろー!」
仲間が飛び出そうとしたとき、桃太郎は襟首を掴む太い腕を両手で掴み、
体を浮かせて、両足で、鬼の大将の顔に狙いを付けた。
「なに?」
目を丸くする鬼の顔面に、桃太郎のドロップキックが、どすっと、めり込む。
鬼も痛かったが、桃太郎も振り落とされ地面に転がった。
怒り狂った鬼の大将は、今度は踏み潰しにかかる。
どしんどしんと、桃太郎を狙って踏むたびに、地面が震える。
目がよく見えない今がチャンス!
桃太郎は、身を縮め、勢いを付けて鬼の横腹に肘鉄を打ち込んだ。
さすがに、ぐわっと声を上げ、鬼の大将は前のめりになった。すかさず!
桃太郎の頭が、鬼の大将の顎を思いきり突き上げた。
ごんっ!と鈍い音が大きく響く。
今度も、鬼も痛いが桃太郎も痛かった。頭を抱えて「いたたたた」と、うずくまる。
その時、どどどんっと、ものすごい音がしたと思ったら、
「がこっ」と、なんとも気味の悪い音がした。
「桃太郎!」 犬が叫ぶ。
鬼たちも、桃太郎の仲間たちも、目を丸くして、固まってしまった。
顎への一撃によろけて、倒れこんだ鬼の頭の下に、偶然大きな岩があったのだ。
巨体の勢いをもって、頭を岩に打ち付けたのだから、さすがの鬼もたまらない。
痛がってる場合ではない。桃太郎は弾かれたように起き上がり、拳を上げた。
「たいしょー!」鬼たちが叫ぶ。
桃太郎は、拳を振り上げはしたものの、「あれ?」と、動きが止まる。
鬼の大将の黄色い目玉がくるっと、ひっくりかえっている。
桃太郎は、汗と土で汚れた顔を、仲間に向けた。「どうしよう・・?」
「はぁ?!」犬も猿も、驚いた。
「あほかー!ここに、何をしにきたんだ!」雉が思わず飛びあがる。
「だって。ちょっとこれ、すごいことになってるよ。」桃太郎は困ってしまった。
仲間の三匹は、もっと困って、そろって頭を抱えた。
その時、ぐぐぐっと、くぐもった声を出し、鬼の大将が、体を起こそうと動いた。
皆がざわつく中、桃太郎は、動かなかった。
「小僧、ついていたな。お前の勝ちだ。」鬼の大将が言う。
どうやら、起き上がれないらしい。
「うん。勝った。」桃太郎が、そういうので、鬼は怪訝そうに首を向ける。
桃太郎は、顔の汚れを袖でぬぐいながら言う。
「降参だよね。降参すると言ってもらわないと困るんだ。うちの軍師が納得しない。」
「小僧。何が欲しくて来た。」鬼の大将が、少し、おもしろそうに聞いた。
「だから。鬼退治だって。」桃太郎が真剣な顔で答えた。
鬼の大将は、しばらく桃太郎を見ていたが、
「ふん。人間に関わると、ろくなことはない。」と、言い、
「小僧、降参だ。たいしたもんだ」と、ぐっぐっと、笑った。
「よかった!」桃太郎は、にっこり笑う。
桃太郎が去ろうとすると、鬼の大将が呼び止めた。
「俺の目の黒いうちは人間を襲わないと約束するが、後はわからんぞ。」と言う。
「その時は、また勝負だ。大人になってるから、もっと強いぞ。」と、桃太郎が笑う。
「そうか。それは楽しみだ。」鬼の大将も、少し笑った。
鬼は、恐ろしいが、だまし討ちはしない。一度約束したら破らない。
降参したと言う事は一目置いたと同じ事。
鬼が島の鬼たちは、桃太郎たちの舟を、黙って見送った。
鬼たちは、この後の荒れようを覚悟していたが、
以外に、大将の機嫌が、それほど悪くないので、ほっとしていた。
「なんだか、すごかったな」
「おお。ひさしぶりに、なんだか、とにかく、すごかった」
絶壁の孤島は、嵐が去った後のようだった。
その後の話
再び、まる一日波にのり、舟を貸してくれた子どものいる漁師村の浜に着く。
「あれ?あの坊やだよ」猿が、浜辺を走ってくる男の子を見つけた。
「さぶろ〜〜〜!!」顔面涙だらけ。雉を、ぎゅ〜っと抱きしめた。
親の敵討の為に、あやうく大切な友達もなくすところだったのだと、
泣きじゃくる子どもを見て、桃太郎も嬉しくなった。
しあわせそうな雉と、子どもと、漁師村の人たちに手を振って、
桃太郎たちは、家路につく。
「次郎はどうする?うちにくる?」と桃太郎が聞くと、猿は仰天した。
「冗談じゃない。山に帰る。おれは、そのうち、ボス猿になるんだからな。」と言う。
「そうか〜。ボス猿か〜。頑張ってね次郎。」と、桃太郎も嬉しそうに言う。
「年取って、ボスの座追われたら来るんだな。」と、犬が言う。
「え〜。ヘンクツ爺さんになった犬と一緒か〜?それはちょっとな〜。」
「ヘンクツとは何だ!」
「だいたい、おまえ、半野良なんだろ、飼われてるわけじゃないんだろ〜」
「半野良とは何だ。俺は、飼い犬なんかじゃないぞ!」
「そうそう。太郎は、ごはん食べる時と、寝る時だけ家に来るんだモンね」
「そういうのを、半野良っていうんだい」
「う〜・・うるさい!」
おわり
   
ありがとうございました
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