闇の姫(後編)


 
二日目の夜。

羊飼いは、床下に隠し部屋がある事を発見し、そこに隠れました。

棺がたくさん並んでいます。姫に殺された善人と言われた人たちでしょう。

姫が動く時間が限られていると分かったので、その間、見つからなければ良いのです。

「命がけのかくれんぼだな」と、溜息。


姫が、探し回っている足音が聞こえます。若者は骸に混じって、動かず息を殺しておりました。

しかし、やがて、床下にも姫が降りてきました。


「・・・あたたかいのが、そうよ・・」

姫は、棺をひとつずつ開け、確かめていきました。

そして、とうとう、羊飼いの棺を開け、あたたかいと知ると、首に手を伸ばしてきたのです。

驚きすぎて、目も閉じられません。

若者は、姫の闇の顔を凝視しました。よく見えませんでしたが、ひどく哀しそうに思えました。

そのとき、

また、一時の鐘の音が鳴り、姫は、しずかに手を離し、戻っていきました。


その日、塔の扉が開けられました。

若者は生きているのに、姫はまだ棺の中です。城の人々も、どうしたものかと悩みました。

ところが、若者は、自分から残ると言いました。

少し、思うところがあったのです。

「明日の朝、また来てください。私が死んでいるか。姫が生き返っているか。どちらかです。」



三日目の夜。

若者は、姫の棺の下に隠れました。

姫が棺から起き上がり、動き回り始めると、棺に入り込み、そこでじっとしていました。

これはうまくいったようで、姫は探し回りましたが、やがて一時の鐘の音が鳴りました。
 

自分の棺に入ろうとすると、羊飼いが、そこにいました。

「一時過ぎたけど、殺されるのかな。それとも・・」


姫は、その場に立ち尽くし、

わずかに震えたように見えました。
 
  やがて、影が崩れるように落ち、姫の姿が現れました。

まだ、よくわからないような顔をした少女に、羊飼いはにっこりと笑います。

「よかったですね。」


この人は、闇の姿での自分を、どこまで覚えているのだろうと、若者は心配になりました。

まだ、ぼんやりしている姫に、大丈夫ですよと呟く若者の言葉が終わらないうちに、

塔の扉が開かれました。


 

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あとがき

ドイツの昔話の「黒いお姫さま」を紹介したかったのですが、
イラストにするにも難しいし、あらすじだけ書いていたら長くなりすぎるしで、
結局、ノベル型になってしまいました。

なんて怖いお話でしょうと思いつつ、とても惹かれた物語です。
私が読んだ本では、「黒い姫」という姿で、
ちょっとまちがうと、人種差別とも取られかねない表現もあり
どう書いてみようかと、少し考えてしまいました。

本文は、もっと流血。おどろおどろしいので、
子どもさんには、あまり、お勧めできません(^ ^;)ゞ

「明日の朝、私が死んでいるか。姫が生き返っているか。どちらかです。」
この言葉は読んだ文中そのままで、この若者気に入りました。

羊飼いの若者が、決して善人だから救われたというわけでなく、
気転と、すばしっこさで姫を出し抜いていたので好きなんです。

最後は、おきまりの、「姫を助けた者は婿さんに」というパターンの話しなのですが、
勝手に変えてしまいました。
いくら童話とはいえ犠牲が多すぎて。
華やかなハッピーエンドはちょっとな〜なんて思ったのです。



ここまで読んで下さって、本当に、ありがとうございます。



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